浪速のスーパーティーチャー守本の授業実践例

第一章 詩

3 「風船乗りの夢」 萩原朔太郎

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③ 心情の変化

 この詩の詩人の心情は揺れ動いています。この詩の前提とする心情は、現実逃避や現実否定に近いものであり(暗)、それ故に、地上から離れて、ふわりふわり気楽に飛ぶ気球にあこがれます(明)。しかし、幻覚や妄想の世界でも、気球の行き先になると、理想郷・ユートピアなど思いもつかず、はたと想像力が停止し、現実に戻ってきます(暗)。「いま」「ここ」はもちろん、「明日」にも「どこ」にも展望が開けないほど、詩人の現状は閉塞し、絶望的なのです。

 詩人はここで、酒の力を借りずに、また幻想の世界に入り、精一杯の「夢」を語り始めます。

しだいに下界の陸地をはなれ
愁ひや雲やに吹きながされて
知覚もおよばぬ真空圈内へまぎれ行かうよ。
この瓦斯(ガス)体もてふくらんだ気球のやうに
ふしぎにさびしい宇宙のはてを
友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。

 詩人の夢(この場合は風船乗りの夢になりますが)は、下界や、現実・人間から、最も遠くへ離れていくことです。そこは、人からも知覚できない場所であり、当然そこは、自分からも人を知覚できない場所でもあります。つまり、人間や現実から完全に遮断された世界こそが自分の居場所であるとしているわけです。そこには何もありません。あるのは、現実を否定し、現実を拒絶したということだけです。しかし、それがこの詩人の妄想の行き着いた異郷であり、理想郷なのです。

 下界からの束縛もなく、ふわりふわりとあてどなく宇宙のはてをさまよう気球を想う心情は、「明」といえば「明」でしょうが、それは、あくまでも屈折した解放感であり、暗くて深い絶望の淵における幻想であることを忘れてはいけないでしょう。

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