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ちくま新書

社会保障のどこが問題か

——「勤労の義務」という呪縛

働かざる者食うべからず――日本社会を支配する精神を問いなおす

日本の社会保障はなぜこんなに使いにくいのか。複雑に分立した制度の歴史を辿り、日本社会の根底に渦巻く「働かざる者食うべからず」という倫理観を問いなおす。

定価

1,012

(10%税込)
ISBN

978-4-480-07649-6

Cコード

0236

整理番号

1821

2024/10/08

判型

新書判

ページ数

272

解説

内容紹介

病気やケガをしたとき、出産や育児、そして介護が必要になったときの生活を保障する社会保険。働けなくなったときや老後の生活を支える年金制度。毎月の給料から天引きされているものの、いざというとき自分がどの給付を受けられるのかわかりにくく、申請するのもどこか後ろめたい。日本の社会保障はなぜこんなにも使いづらいのか。複雑に分立した制度の歴史から、この国の根底に渦巻く「働かざる者食うべからず」の精神を問い、誰もが等しく保障される社会のしくみを考える。

目次

はじめに
複雑で使いにくい社会保障/問題はどこにあるか/法律学というアプローチ/社会保障と法解釈/「勤労の義務」を問いなおす/人々の意識と法的権利/理想の社会保障に向けた共同作業

第一章 なぜ働き方によって社会保障が違うのか――労働者と自営業者
1 社会保障の全体像
老後四八八〇万円問題?/「労働」とは何か/「労働者」と「自営業者」/日本の社会保障の体系
2 公的年金における違い
公的年金の構造と老齢期の差/同業者同士での対応の限界
3 医療における違い
公的医療保険の構造/自営業者への対応
4 失業時・雇用継続対策における違い
雇用保険の適用関係による違い/求職者支援制度
5 労働災害における違い
労災保険という仕組み/労災保険の適用の有無による違い/労災保険への特別加入

第二章 なぜ働き方で分立しているのか――四つの社会保険
1 制度がつくられた時代
戦後日本の就業構造/農林業が中心だった時代
2 公的年金はなぜ分かれたか――国民年金と厚生年金
公的年金の歴史/労働者年金の設立と厚生年金への改組/国民年金の設立をめぐって/自営業者の所得を把握するのは難しい?/なぜ公的年金は分かれたか
3 公的医療保険はなぜ分かれたか――国民健康保険と健康保険
現在の公的医療保険/国民健康保険の制定・改正をめぐって/なぜ自営業には傷病手当金等がないか
4 雇用保険はなぜ自営業者には適用されないか
雇用保険とは何か/「自発的な」失業?
5 労災保険はなぜ自営業者には適用されないか
労災保険とは何か/特別加入とその例外性
6 社会保険はなぜ分かれたか
制度分立の理由/労働者中心の社会保障

第三章 なぜ使いにくいのか――社会保障と情報提供義務
1 社会保障と情報提供義務
申請しないと給付は受けられない?/情報提供義務をめぐる先駆的裁判例/その後の裁判例
2 行政以外の情報提供義務
民間主体と情報提供義務/行政の肩代わり?
3 他分野との比較
企業年金分野との違い/厚生年金基金と情報提供義務/確定給付年金と情報提供義務/社会保障法領域との比較
4 情報提供義務のどこが問題か
情報提供義務の意義/情報提供義務の限界

第四章 生活保護のうしろめたさ――社会保障と「勤労の義務」
1 生活保護を受給できるのは誰か
働かなくても生活保護を受けられる?/「稼働能力」とは何か
2 行政による「指導・指示」
受給中は「指導・指示」を受ける/働きながら生活保護を求めたXさんの事案/職業選択の自由?/裁判所の判断内容/「勤労の義務」と生存権
3 生活保護と不正受給
最低生活費はどう決まるか/不正受給は増えているのか/不正受給の事案/不正受給の背景にあるさまざまな事情/「働くこと」をめぐる規範意識
4 「勤労の義務」という精神
法の根本にある「勤労の義務」/「勤労の義務」という倫理観

中間のまとめ 「勤労の義務」という呪縛
「勤労の義務」と生活保護/「勤労の義務」と社会保障/「勤労」の中身?/時代状況の変化と「勤労」/「働かざる者食うべからず」という倫理観/倫理観が権利を阻害する/問題の根本はどこにあるか

第五章 「勤労の義務」の意味―日本国憲法制定時の議論を読む
1 なぜ「勤労の義務」を検討するか
「勤労の義務」規定と法的な効力/法解釈に唯一の正解はない
2 日本国憲法制定時の帝国議会の議論
帝国議会の推移と衆議院本会議での議論/衆議院帝国憲法改正委員会での議論
3 衆議院帝国憲法改正小委員会による勤労義務の挿入
小委員会の構成と生存権への言及/「勤労」か「労働」か/「勤労」とは何か/「法的義務」か「道徳的義務」か/道徳的義務としての見解の一致/文言の確定
4 勤労の義務の法的意義
イデオロギーを超えた合意/「勤労」と「義務」

第六章 働くことと社会保障を切り離す
1 変化する働き方
働き方と社会保障の関係を問いなおす/非正規労働者などの状況/変化する自営業者の就業実態/労働者という働き方の変容
2 社会保障をめぐる論争史
公的年金――民主党の年金一元化案/医療保険――コロナ禍による部分的な実現/雇用保険とその周辺をめぐる動向/労災保険における特別加入
3 働くことと社会保障を切り離す
依然として残る労働者中心主義/働き方の順位付けと法解釈問題/「働くこと」と社会保障を切り離す/技術的な問題

終章 新しい社会保障のために
1 現行制度とどうつなげるか
問題点のおさらい/現行制度をベースとした年金と医療の構想/現行制度をベースとした雇用保険の構想/現行制度をベースとした労災保険の構想/技術的な問題をどう乗り越えるか/複雑であっても利用しやすい社会保障/生存権の実現―「働かざる者食うべからず」を問いなおす
2 まったく新しい社会保障へ
社会保険を編みなおす/最低生活保障を編みなおす

ブックガイド
あとがき
参考文献

著作者プロフィール

山下慎一

( やました・しんいち )

山下慎一(やました・しんいち):1984年長崎県西彼杵郡(現・諌早市)多良見町生まれ。福岡大学法学部教授。一般社団法人FUスポーツコミュニティ理事。九州大学大学院法学府公法・社会法学専攻博士後期課程単位取得退学。博士(法学)。主著『社会保障のトリセツ――医療・年金・介護・労災・失業・障がい・子育て・生活保護 困ったときに役所の窓口に持っていく本』(弘文堂)、『社会保障の権利救済――イギリス審判所制度の独立性と積極的職権行使』(法律文化社)など。

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