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ちくま学芸文庫

動物と人間の世界認識 

——イリュージョンなしに世界は見えない

モンシロ蝶の世界に赤はない!

人間含め動物の世界認識は、固有の主体をもって客観的世界から抽出・抽象した主観的なものである。動物行動学からの認識論。 【解説: 村上陽一郎 】

定価

924

(10%税込)
ISBN

978-4-480-09097-3

Cコード

0145

整理番号

-11-1

2007/09/10

判型

文庫判

ページ数

208

解説

内容紹介

ある日、大きな画用紙に簡単な猫の絵を描いて飼い猫に見せた。するとすぐに絵に寄ってクンクンと匂いを嗅ぎだした。二次元の絵に本物と同じ反応を示す猫の不思議な認識。しかしそれは決して不思議なことではなく、動物が知覚している世界がその動物にとっての現実である。本書では、それら生物の世界観を紹介しつつ人間の認識論にも踏み込む。「全生物の上に君臨する客観的環境など存在しない。我々は認識できたものを積み上げて、それぞれに世界を構築しているだけだ」。著者はその認識を「イリュージョン」と名づけた。動物行動学の権威が著した、

目次

?Cリュージョンとは何か
ネコたちの認識する世界
ユクスキュルの環世界
木の葉と光
音と動きがつくる世界
人間の古典におけるイリュージョン
状況によるイリュージョンのちがい
科学に裏づけられたイリュージョン
知覚の枠と世界
人間の概念的イリュージョン
輪廻の「思想」
イリュージョンなしに世界は認識できない
われわれは何をしているのか

著作者プロフィール

日高敏隆

( ひだか・としたか )

1930年生まれ。東京大学理学部動物学科卒。東京農工大学教授、京都大学教授、滋賀県立大学学長、総合地球環境学研究所所長を歴任。理学博士。本文中に引用したものの他、『人間についての寓話』(平凡社)、『動物はなぜ動物になったか』(玉川大学出版部)、『帰ってきたファーブル──現代生物学方法論』(講談社)、『ぼくにとっての学校──教育という幻想』(講談社)、『春の数えかた』(新潮社)など多数の著書・訳書がある。

この本への感想

 文庫版190ページ弱の読みやすさでもあるが、内容は実に深い問題が提示されている。
 サブタイトルにもなっている、<イリュージヨン>とは何かという序章で、著者は下記のような趣旨を語る。
 動物たちは、それぞれがそれぞれの生活に役立つ、環境のなかに棲んでいる。その環境とは小さな身の回りの世界のことだ。それは、われわれが見たり考えたりした客觀的な世界−宇宙とは違って、そのごくごく一部を切り取って見ているといえる。それは客観的なものではなく、きわめて主観的な、それぞれの動物によって違うものである。では、他の動物と違い、われわれ人間は本当に客観的な世界を見、客観的な世界を構築しているのだろうか。それも違う。われわれには紫外線や赤外線は見えない。そのようなものは現実の世界に存在しているのであるが、われわれはそれを見ることも感じることもできない。ただその作用を受けているだけである。人間はそれを研究することによって、そのような紫外線なり赤外線なりというものの存在を、総体としての宇宙の中に位置づけて知ることが出来る。これは他の動物にはできないことだ。
 しかしまた、人間以外の動物も、身の回りの環境全てを本能により即物的にとらえているだけではない。むしろ本能としては、環境のなかの幾つかを抽出し、それに意味を与えて、自らの世界認識をもち行動している。
そうしてつくられた世界は<客観的>に存在する現実のものではなく、あくまでその動物主体によって<客観的>な全体から抽出、抽象された主観的なものだ。それはある種の錯覚かも知れないが、つねに客観的事実と一致しない誤った知覚であるとは限らない。著者はこの知覚のありかたを、イリュージョン(illusion)とよび、以下11章にわたってその内容を説明する。

 そして終章で、人間と動物の世界に対するありかたをつぎのようにまとめる。 
 昆虫たちは彼らの見ている世界を真実と思っているだろう。われわれ人間はわれわれの見ている世界を真実だと思っている。これは昆虫と人間が、それぞれのイリュージョンによって認知しているということだ。
 われわれに客観的というものは存在しないし、われわれの認知する世界のどれが真実であるか、と問うことは意味がない。
 学者・研究者を含めてわれわれは何をしているのだと問われたら、答えはひとつしかないような気がする。それは何かを探り考えて、新しいイリュージョンを得ることを楽しんでいる、ということに尽きる。

 さて、以上の趣旨を改めて見直すと、われわれには世界を認識する手だては永久に無いのではないか、という気分にもなる。たしかに現在の人類の研究上の到達点では、世界−宇宙が鮮明に見えてはいない課題は多々あろう。しかしそれはどんなに遅い歩みであっても、次第に見えてくると考えることは楽天的に過ぎるのだろうか。ここで勿論、地球の終焉もしくは人類の滅亡などのアクシデントで事態が急変したときは例外として、絶えざる努力が人間に与えられた能力の一つだとすると、将来的展望がありそうに思えるのは、これまたイリュージョンなのだろうか。
 課題を提示され、解決を模索したくなる、興味津々の生物論である。

おおた六魚

さん
update: 2007/10/09

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