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定価

1,430

(10%税込)
ISBN

978-4-480-80386-3

Cコード

0093

整理番号

2004/10/25

判型

四六判

ページ数

208

解説

内容紹介

幼い日、轢死した少女が最後に残した手話とは?美大を舞台に、記憶・写真・茶会…そして人差し指の先のない「らいな」との出会いが交錯する。選考委員全員一致で「第20回太宰治賞受賞」。

この本への感想

 井上陽水の初期のアルバム曲においては、季節における夏の終わりから秋、そして冬を感じさせる曲が印象的である。
 その井上陽水が生まれ育った筑豊の廃れた炭鉱のトロッコ線路を、この作品の出だしは想起させるものだった。じりじりとした太陽の熱さがあるのだろうが、夏の暑さをそのままに無音声の8ミリフィルムを進めている光景が浮かぶ。
 美術大学の学生である主人公が課題作として廃線になった故郷の鉄道を題材にしたことからストーリーは始まったが、そこからは隠された真実はまったく登場もしない。熱くも無く冷たくも無く故郷を描こうとする主人公の姿、その課題作の制作に親切に手を貸す昔の友人の登場は田舎の古きよき人間関係、共同体意識に安心を導いていってくれる。
 しかし、友人の親切の裏にある魂胆から意外なストーリーが展開していくのだが、障害者の屈折した過去の事件がからむ。それもいずれもが指にまつわるものである。

 環境は変われども、今もこんな退廃的な若者が存在するのだろうか。
 勝ちとか、負けとか、ステータスとか無関係な若者がいるのだろうか。
 久しぶりに、遠い昔の学生時代に戻って、他愛の無い日常の世界に起きる、世間一般では「それがどうした」といった問題を真剣に議論していたあの頃を思い出させるものだった。
 
 ひまわり模様の飛行機に乗り、夏の日にあの娘は行ってしまった、誰にもサヨナラ言わないままで、という出だしで始まる陽水の曲が文字を追いつつ、流れていた。気持が後ろ向きになっても、ほんの少し浮かれた気分になっても、陽水の曲を聴いていたあの時代に戻れるものだった。
 ただ、最後のエンディングは闇のままでも良かったのではと思った。

佐々木 昇

さん
update: 2006/12/23

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