吉見俊哉
( よしみ・しゅんや )一九五七年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は社会学・文化研究。著書『夢の原子力』(ちくま新書)、『ポスト戦後社会』『親米と反米』『大学とは何か』『トランプのアメリカに住む』(以上、岩波新書)、『「文系学部廃止」の衝撃』『大予言』『戦後と災後の間』(以上、集英社新書)、『天皇とアメリカ』(集英社新書、テッサ・モーリス‐スズキとの共著)など多数。
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世界に類を見ない規模を誇る東京は、都市における「勝ち組」と言っていい。戦前にあっては、帝国日本がアジアへ版図を広げる際の中心地であった。その意味でも東京は、拡張主義的な都市である。だが、著者によれば東京は「敗者」でもある。3度の「占領」を経験しているからだ。一度目は、1590年の徳川家康によるそれとして。二度目は、1868年の薩長軍による占領である。そして三度目は、1945年以降の米軍による占領だ。その都度、無数の敗者が生まれ、その記憶は、凹凸をなす東京の地形と結びついて地層をなしてゆく。そしてそれこそが、この巨大都市の最大の魅力となってきた。こうした、東京の歴史的地層に焦点を当てて、敗者たちの記憶の水脈を探ったのが、本書である。膨大な資料を読み込み、縄文や弥生の世までいったん遡行し、そこから戦後までの、江戸=東京の変容を、「敗者」という視点から浮かび上がらせた、渾身の著。都市論を重要テーマとしてきた著者の、集大成とも言い得る仕事である。
東京とは何か―勝者と敗者のあいだ
第1部 多島海としての江戸―遠景(クレオール的在地秩序
死者の江戸、そして荘厳化する外縁)
第2部 薩長の占領と敗者たち―中景(彰義隊の怨念とメモリー・ランドスケープ
博徒と流民―周縁で蠢く敗者たち
占領軍と貧民窟の不穏―流民の近代をめぐる眼差し
女工たちは語ることができるか)
第3部 最後の占領とファミリーヒストリー―近景(ニューヨーク、ソウル、東京・銀座―母の軌跡
学生ヤクザと戦後闇市―安藤昇と戦後東京
「造花」の女学校と水中花の謎―山田興松とアメリカ進出
原風景の向こう側―「都市のドラマトゥルギー」再考)
敗者としての東京とは何か―ポストコロニアル的思考
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