八木詠美
( やぎ・えみ )八木 詠美(やぎ・えみ):1988年長野県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2020年『空芯手帳』で第36回太宰治賞を受賞。世界13カ国語での翻訳が進行中で、特に2022年8月に刊行された英語版(『Diary of a Void』)は、ニューヨーク・タイムズやニューヨーク公共図書館が今年の収穫として取り上げるなど話題を呼んでいる。
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紙管製造会社に勤める柴田は女性だからという理由で社内の雑用をすべて押し付けられ、上司からはセクハラ紛いの扱いを受ける34歳。ある日、延々と雑務を肩代わりする人生に嫌気がさした柴田は、はずみで「妊娠した」という嘘を口走り、その瞬間を境に“にせ妊婦”を演じることになってしまう。しかし、皆に労わられながらの定時退社や「妊娠」にふさわしい食生活で美肌になるなど、その設定に則った日常は思いがけず快適で、空虚な日々はにわかに活気づいていった。
やがてマタニティエアロビに精を出しはじめた柴田は、知り合った妊婦仲間たちとの交流を通して“産む性”の抱える孤独を知ることになる。表面的な制度や配慮だけは整っていく会社、ワンオペ育児や産後うつに苦しむ女性たち、妊活がかなわず子どもをあきらめていく夫婦……現実は「産んでも地獄、産まぬも地獄」だった。彼女はちいさな?を育てることで自分だけの居場所を守ろうとしていた。
そしてむかえた妊娠40週め、柴田の「出産」はいかなる未来を切り開くのか――。
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