八木詠美
( やぎ・えみ )八木 詠美(やぎ・えみ):1988年長野県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2020年『空芯手帳』で第36回太宰治賞を受賞。世界13カ国語での翻訳が進行中で、特に2022年8月に刊行された英語版(『Diary of a Void』)は、ニューヨーク・タイムズやニューヨーク公共図書館が今年の収穫として取り上げるなど話題を呼んでいる。
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小学校の算数で「垂直と平行」を学んだときに「平行の直線はどこまで伸ばしても永遠に交わることがありません」と聞いて以来、他人とのあいだをへだてる黄色いレインコートが見えるようになったホラウチリカは、大学卒業後、他人との接触機会が少なく、なによりもレインコートを常時着用していても暑くならない冷凍食品の倉庫で働いている。
ある時、大学時代にラテン語を習った恩師より、不思議なアルバイトの依頼がくる。さる美術館が所蔵している古代ローマ期に創られたヴィーナス像の話し相手になってほしいと言うのだ。意外と(?)気さくなヴィーナスとのラテン語での雑談は「ホーラ」(という愛称をヴィーナスにつけられた)のコミュ障をほぐしていくが、永遠の美の象徴たるヴィーナス像を崇拝する学芸員のハシバミは俗に惹かれていくヴィーナスをこころよく思わない。
アルバイトは休館日という取り決めだったので、ふだんは見ていなかった開館日に美術館を訪れたホーラはヴィーナスに対して歪んだ欲望をぶつけるハシバミの姿を見る。ホーラはヴィーナスを囚われの身から救い出そうと決意するが――。
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